ASTHMA / PHARMACOLOGY

SABA と SMART療法 完全解説

「なぜ発作時の吸入薬が必要なのか」「なぜ1本の吸入器で維持と発作の両方を兼ねられるのか」を、添付文書とGINA 2025のエビデンスから整理しました。日本での承認状況と、喘息の吸入薬・内服薬の全体像もまとめています。
作成:2026-09-12/対象:喘息の吸入薬について知りたい人/用途:吸入薬の仕組みと治療の選択肢を理解するための資料
要点

発作時の吸入薬(SABA)と、1本で維持と発作時を兼ねる SMART療法

SABAは症状を取るだけで炎症には効かない。だから吸入ステロイド(ICS)を使わずSABAだけに頼るのは危険。問題は「SABAを持つこと」ではなく「抗炎症薬を使わずSABAに頼り切ること」。
SMART療法なら、発作時に気管支拡張と抗炎症が同時に届く。これを可能にするのはホルモテロールだけが持つ「LABAなのに数分で効く」という性質。だからICS+ホルモテロールの配合剤は、1本で維持と発作時を兼ねられる。
日本でSMART療法が承認されているのはシムビコートとブデホルのみ。フルティフォームはホルモテロールを含むが、この用法での承認がないため発作時の頓用には使えない。シムビコート/ブデホルはドライパウダー(DPI)なので、スペーサーは使えない。

00略語早見表

喘息治療の略語は、読み方を知らないと診察室の会話についていけません。先に整理しておきます。

略語読み正式名意味
SABAサバShort-Acting Beta2-Agonist短時間作用性β2刺激薬。数分で効き4〜6時間持続。発作時のレスキュー。サルタノールがこれ。抗炎症作用はゼロ
LABAラバLong-Acting Beta2-Agonist長時間作用性β2刺激薬。12時間持続。サルメテロール(アドエア)/ホルモテロール(フルティフォーム・シムビコート)/ビランテロール(レルベア)
ICSアイシーエスInhaled CorticoSteroid吸入ステロイド薬。気道の炎症そのものを抑える喘息治療の土台。嗄声の原因でもある
LAMAラマLong-Acting Muscarinic Antagonist長時間作用性抗コリン薬。重症例やCOPDで追加
LTRAエルティーアールエーLeukotriene Receptor Antagonistロイコトリエン受容体拮抗薬(内服)。アレルギー性喘息の追加治療選択肢
SMARTスマートSingle inhaler Maintenance
And Reliever Therapy
1本の吸入器で維持と発作時の両方をまかなう方式。日本ではシムビコート・ブデホルのみ承認
MARTマートMaintenance And Reliever TherapySMARTとほぼ同義。GINAはこちらの呼称を使う
AIRエアーAnti-Inflammatory Reliever抗炎症リリーバー。発作時に気管支拡張と抗炎症を同時に届ける考え方。GINA Track 1 の中核概念
pMDIピーエムディーアイpressurized Metered-Dose Inhaler加圧定量噴霧式吸入器。ガスで噴射するタイプ。スペーサーが使えるのはこちらだけ。フルティフォーム・サルタノールが該当
DPIディーピーアイDry Powder Inhalerドライパウダー吸入器。自分の吸気流速で粉末をエアゾル化する。スペーサー使用不可。レルベア(エリプタ)・シムビコート(タービュヘイラー)が該当
GINAジーナGlobal Initiative for Asthma喘息治療の国際ガイドライン。毎年更新。本資料は2025年版に準拠
JGLジェイジーエルJapanese Guideline for Asthma日本アレルギー学会「喘息予防・管理ガイドライン」。最新は2024年版
AERDエーイーアールディーAspirin-Exacerbated
Respiratory Disease
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)
⚠️ 診察室での聞き間違いに注意:SABA(サバ)と LABA(ラバ)は1文字違いで、役割がまったく違います。

サバ=短時間作用・発作時のレスキュー・抗炎症作用なし(サルタノール)
ラバ=長時間作用・毎日の維持・単独使用は禁忌(ホルモテロール等)

医師と話すときは「短時間作用のサバのほう」と補足するか、薬剤名(サルタノール、ホルモテロール)で直接言ったほうが確実です。両者の違いは図3で視覚的に整理しています。

01SABAとは何か

SABA(Short-Acting Beta2-Agonist/短時間作用性β2刺激薬)は、気道平滑筋のβ2受容体に結合し、細胞内cAMPを上昇させて平滑筋を弛緩させる薬です。狭くなった気道が物理的に広がり、数分で効いて4〜6時間持続します。

日本ではサルタノール(サルブタモール)、メプチンエアー(プロカテロール)など。メプチンエアーの成分は、飲み薬のメプチン錠と同じプロカテロールです。

最も重要な性質:SABAは症状を取るだけで、炎症には一切効きません。
喘息の本体は気道の慢性炎症です。SABAは火事における「煙を吸い出す換気扇」であって、火を消す装置ではありません。
SABA だけ(危険) 換気扇=SABA 火=炎症は燃え続ける 煙=症状 ICS 維持 消火器=吸入ステロイド 火は小さく保たれる ただし発作時の即効性はない SMART(1本で両方) 換気扇+消火器を同時に作動 煙を吸いながら火も消す
図1:SABAは煙(症状)だけを消し、火(炎症)は燃え続ける。ICSは火を消すが即効性がない。SMART療法は発作時に両方を同時に届ける。

02なぜ「SABAだけ」が危険なのか

SABAは即効性があるため、患者は「効いた」と実感します。一方でICSは吸っても何も感じません。結果として体感に正直な患者ほどSABAに依存し、ICSをサボる。炎症は進行し、ある日コントロール不能な発作が来る。これがGINAが2019年に治療方針を大転換した理由です。

歴史的背景(ただし決着していない)

1970〜80年代のニュージーランドで喘息死が流行し、β2刺激薬フェノテロールが原因と疑われました。

⚠️ この因果関係は現在も論争中です。同じデータの再解析により「喘息悪化の減少はフェノテロール規制ではなく、吸入ステロイドの普及と強く関連する」という反論があります。断定的に語るべきではない事例です。

現代のエビデンス:SABINAプログラム(25ヶ国以上)

年間3本以上のSABA使用を「過剰使用」と定義した大規模観察研究です。

SABINA:SABA過剰使用(年3本以上)が示すもの スウェーデンの喘息患者 1/3 が過剰使用に該当 その過剰使用者のうち 28% 抗炎症薬を まったく受け取っていない 重症増悪リスク(カナダ) 基準 1.00 過剰 1.32〜1.36倍 死亡リスクも上昇
図2:SABINA programme の主要知見。問題は「SABAを持つこと」ではなく「抗炎症薬を使わずSABAに頼り切ること」。
読み方のポイント

SABINAが危険視しているのは「SABAを持っていること」ではなく、「ICSを使わずSABAに頼り切っていること」です。過剰使用者の28%が抗炎症薬ゼロ、という数字がそれを物語っています。

03SMART / MART療法とは

SMART = Single inhaler Maintenance And Reliever Therapy。GINAは現在MART、あるいはAIR(Anti-Inflammatory Reliever=抗炎症リリーバー)という呼称を使います。1本の吸入器で、毎日の維持療法と発作時の頓用を兼ねる方式です。

なぜホルモテロールだけがこれを可能にするのか

ここが薬理学的な核心です。通常のLABA(長時間作用性β2刺激薬)は効果発現が遅いため、発作時には使えません。ところがホルモテロールだけは、LABAでありながらSABA並みに速く効きます。

効果発現の速さ × 作用時間 030分 4h6h12h 吸入してからの経過時間 サルブタモール SABA・サルタノール 数分で効く/4〜6時間 抗炎症作用ゼロ サルメテロール LABA・アドエア 約30分かかる/12時間持続 ✕ 遅い ホルモテロール LABA・フルティフォーム/シムビコート 数分で効く/12時間持続 ◎ 速効性と長時間作用を両立
図3:ホルモテロールだけが「速効性」と「長時間作用」を兼ね備える。だからICS+ホルモテロールの配合剤だけがリリーバーを兼任できる。
ホルモテロールを含む配合剤(フルティフォーム・シムビコート)は、薬理的には発作時にも使える性質を持っています。ただし日本の承認の壁があります(後述)。
🚨 紛らわしさの罠:「SMART」には まったく別の2つの意味があります

検索や診察室で混同が起きやすく、しかも意味する方向が正反対なので、ここで切り分けておきます。
同じ「SMART」正体結論
SMART療法
(本資料のテーマ)
Single inhaler Maintenance And Reliever Therapy
=1本の吸入器で維持と発作時を兼ねる治療法
GINA推奨の治療法
SMART試験
(2003年の臨床試験)
Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial
=サルメテロール単剤の安全性を調べた26,000人超の大規模試験
LABA単剤の危険性を示した試験
一方は「LABAをこう使え」という推奨、もう一方は「LABAをこう使うな」という警告です。略語が同じなだけで、両者は無関係と考えてください。

セレベントとSMART試験:喘息治療の歴史的転換点

セレベント(サルメテロール単剤=LABA単剤)は、喘息治療史における最大級の安全性論争の主役でした。

SMART試験(Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial・2003年公表)は26,000人超を対象に、標準治療に加えてサルメテロールを投与する群とプラセボ群を比較しました。結果、サルメテロール群で喘息関連死・生命を脅かすイベントが有意に増加。FDAはLABAを含む全吸入薬に黒枠警告を課しました。

ただし決定的な但し書きがあります。この増加は吸入ステロイドを併用していない患者で最も顕著であり、ベースラインでICSを使っていた患者では有意差が出ませんでした。のちにICS/LABA配合剤の大規模安全性試験でリスク上昇が否定され、配合剤の黒枠警告は解除されています。

結論:LABAは単剤で使えば危険、ICSと一緒なら安全。だからこの世界は「ICS単剤+LABA単剤を別々に処方する」のをやめて、最初から1本にまとめた配合剤へ移行しました。

この移行を、実際の薬で見ると

フルタイド(ICS)+セレベント(LABA)の2本立て → アドエア(同じ2成分を1本に配合)。
アドエアの中身はフルチカゾンプロピオン酸エステル+サルメテロール、つまりフルタイドとセレベントそのものです。薬が変わったのではなく、2本が1本になっただけでした。

発作時に何が起きるか

発作時にICS/ホルモテロールを吸うと、気管支拡張と同時にステロイドも気道に届きます。症状が出た瞬間=炎症が燃え上がっているまさにその時に、消火剤が撒かれる。SABAが煙を吸い出すだけなのに対し、SMARTは煙を吸いながら同時に消火します。

04エビデンス

SYGMA1 / SYGMA2(NEJM 2018・52週・12歳以上・軽症喘息)

SYGMA2の結果:頓用ブデソニド/ホルモテロールは、1日2回のブデソニド維持療法に対し重症増悪率で非劣性。ただし症状コントロールでは劣っていた(inferior)。そして頓用群の吸入ステロイド曝露量は維持群の約4分の1。

SYGMA2:吸入ステロイド曝露量の比較(軽症喘息・52週) 1日2回 維持療法 100 頓用のみ(AIR) 約25 ステロイド曝露が約4分の1に 重症増悪の予防効果は非劣性。ただし日々の症状コントロールは維持療法に劣る。
図4:SYGMA2(NEJM 2018)。頓用ブデソニド/ホルモテロール群の吸入ステロイド曝露量は、維持療法群の約4分の1だった。

GINA 2025 の推奨

GINA 2025:リリーバーの2つのTrack TRACK 1 = 推奨 PREFERRED リリーバー:ICS+ホルモテロール 維持も発作時も同じ吸入器(MART / AIR) 重症増悪を約60〜65%減 全身性ステロイド曝露・救急受診も減らす TRACK 2 = 代替 ALTERNATIVE リリーバー:SABA または ICS-SABA Track 1 が使えない場合に選択 ※ SABA単剤だけの処方は不可 必ずICSを併用する構成であること
図5:GINAは「SABAを取り上げろ」とは言っていない。「ICS-formoterolリリーバーに置き換えろ」と言っている。

05日本での状況

項目内容
SMART承認薬シムビコート(ブデソニド/ホルモテロール)と後発のブデホルのみ
日本での開始2012年から
用法維持:1回1〜2吸入×1日2回/発作時:追加1吸入、数分で改善なければさらに1吸入。1日最大8吸入
フルティフォームホルモテロール配合なのにSMART非承認。添付文書に「本剤は発現した発作を速やかに軽減する薬剤ではないので、急性の発作に対しては使用しないこと」「発作時は短時間作動型吸入β2刺激剤等の他の適切な薬剤を使用」と明記
ガイドライン日本アレルギー学会「喘息予防・管理ガイドライン2024」(JGL2024)
フルティフォームがSMART非承認なのは薬理の問題ではなく、その用法での臨床データ・承認申請が日本にないという制度上の理由です。だからホルモテロールが入っていても頓用転用はできません。そして添付文書自身が「発作時はSABAを使え」と指示しています。

06喘息治療薬 全成分マップ

6-0A. そもそもの違い:ステロイドとβ2刺激薬

喘息の薬は、大きく分けるとこの2種類です。違いは「どこに効くか」。

ステロイドβ2刺激薬
効く相手気道の炎症(腫れ・過敏さ)=喘息の原因気道を締めつけている筋肉=炎症の結果
何をするか炎症を起こす仕組みを内側から鎮める筋肉をゆるめて気道を広げる
効き方ゆっくり(吸入なら数日〜数週間で安定)速い(SABAなら数分)
たとえ🔥 火を消す🪟 窓を開けて煙を出す
これだけだと発作のその場では楽にならない楽になるが、火(炎症)は残る
主な副作用吸入:声がれ・口のカビ(カンジダ)
飲み薬:全身(下の表)
動悸・手のふるえ・血中カリウム低下
役割治療の土台(毎日)症状を和らげる役(毎日用=LABA/発作用=SABA)

ステロイドの中の違い:吸入と飲み薬=「届く範囲」の違い

同じ種類の薬を、肺だけに届けるか、全身に回すかの違いです。

吸入ステロイド(ICS)飲み薬のステロイド
代表フルタイド、オルベスコ、配合剤の中身(フルティフォーム等)プレドニン(プレドニゾロン)
届く範囲肺だけ。飲み込んだ分は肝臓でほぼ分解される血液に乗って全身に回る
1日の量の例フルティフォーム125を1日4吸入=ステロイド0.5mg発作時のプレドニン=1日30〜40mg程度(数十倍)
効き始め数日〜数週間かけて安定数時間(それでも即効ではない)
副作用声がれ・口のカビ(喉と口に限られる)短期:血糖上昇・不眠・胃の荒れ/長期:骨・感染しやすさ等
使い方毎日・長期重い発作のときだけ、数日〜1週間程度

β2刺激薬の中の違い:SABAとLABA=「効く時間」の違い

理由は分子の性質。水になじむ薬はすぐ受容体に届くがすぐ流される。油になじむ薬は細胞の脂の膜にしみ込んで少しずつ効く(水性ペンと油性ペン)。

SABALABA(サルメテロール型)LABA(ホルモテロール)
代表サルタノール
メプチンエアー
セレベント、アドエアの中身
(レルベアのビランテロールは24時間型)
フルティフォーム、シムビコートの中身
性質水になじむ油によくなじむ水にも油にもほどほど
効き始め数分遅い(10〜20分)数分
続く時間4〜6時間12時間(ビランテロールは24時間)12時間
使い方発作のときだけ毎日・必ずステロイドと一緒毎日・必ずステロイドと一緒
+シムビコートは発作時にも(SMART)

表の外のβ2刺激薬:メプチンミニ錠(飲み薬)/ホクナリンテープ(貼り薬・1日1回で24時間・LABAの仲間)。
※「膜にたまって少しずつ効く」は現在いちばん有力な説明で、細部には議論が残っています。

6-0B. 全体像:中身 × 形のマトリックス

喘息の吸入薬は、「中身(何が入っているか)」と「形(どうやって吸うか)」の2つの軸で整理できます。

中身/役割スプレー(pMDI)
スペーサーが使える
粉(DPI)
スペーサー不可・吸う力が要る
SABA発作のときだけ・すぐ効く拡張薬 サルタノール
メプチンエアー
ベロテック
メプチンスイングヘラー
ICS毎日・炎症を抑えるステロイド オルベスコ(声の副作用が出にくい)
キュバール
フルタイド(エアゾール)
パルミコート
アニュイティ
フルタイド(ディスカス等)
アズマネックス(2025年販売中止)
LABA毎日・長く効く拡張薬
※喘息では単独で使わない
喘息用はなし セレベント
ICS+LABA毎日・2つを1本で フルティフォーム ホルモテロール
アドエア(エアゾール)
シムビコート/ブデホル ホルモテロール SMART承認
レルベア
アドエア(ディスカス)
アテキュラ
ICS+LABA+LAMA重い人向け・3つを1本で 喘息の適応はなし
(ビレーズトリはCOPDのみ)
テリルジー
エナジア
この表から読めること
① LABAは喘息では単独で使いません(ステロイドなしだと重い発作が増える)。実際に使うのは「ICS+LABA」の行です。「フルタイド+セレベント」の2本立ては、のちに同じ成分のアドエア1本にまとまりました。
② SMART療法ができるのは、ICS+LABAの行でLABAがホルモテロールの薬だけ(すぐ効いて長く効くため)。フルティフォームとシムビコートはどちらもホルモテロール入りですが、日本で発作時の使い方まで認められているのはシムビコート/ブデホルだけです。
③ スペーサーを使いたい場合は左の列(スプレー)になります。ICS+LABAのスプレーはフルティフォームとアドエアの2つだけです。
④ オルベスコは「ICSだけ」の行。同じ成分のICS+LABAの薬はありません。
⑤ 表の外:インタール(ステロイドでもβ2でもない抗アレルギーの予防薬・エアロゾル)/メプチンミニ錠(拡張薬の飲み薬)/ホクナリンテープ(長く効く拡張薬の貼り薬)。ホクナリンはLABAなので、フルティフォーム等と重ねると同じ種類の薬の重複になります(発作時のサルタノールは重複に当たりません)。

※主な薬を挙げたもので全部ではありません。

6-1. 主な吸入薬とスペーサー(実物写真)

ICS+LABA配合剤とLABA単剤、リリーバー、スペーサー、DPIの構造を実物写真で並べます。

セレベント50ディスカス(日本版)
セレベントサルメテロールキシナホ酸塩(LABA単剤)/DPI(ディスカス)・GSK日本版の実物。喘息ではフルタイド(ICS)と併用して使われた。のちにこの2剤が1本にまとまったのがアドエアです。
Seretide 250 Diskus(アドエアの海外名)
アドエアフルチカゾンプロピオン酸エステル+サルメテロール/DPI(ディスカス)写真は海外名 Seretide 250 Diskus。中身の成分・デバイスは日本のアドエアディスカスと同じ。
レルベア100エリプタ14吸入用(日本版パッケージ)
レルベアフルチカゾンフランカルボン酸エステル+ビランテロール/DPI(エリプタ)日本版の実物。DPIなのでスペーサー不可。
フルティフォーム
自由ライセンスの写真が
Wikimedia Commons に存在せず
掲載を見送りました
フルティフォームフルチカゾンプロピオン酸エステル+ホルモテロール/pMDI(エアゾール)・杏林製薬pMDIなのでスペーサーが使えるICS+LABA配合剤。
サルタノールインヘラーを分解した状態
リリーバー:サルタノールサルブタモール硫酸塩/pMDI(エアゾール)・GSK日本版の実物を分解した写真。左がキャップ、中央が噴射器、右が薬剤ボンベ。pMDIの構造がそのまま見えます。
AeroChamber Plus Flow-Vu にpMDIを装着した状態
スペーサー:AeroChamber Plus Flow-VupMDI用のスペーサー右端にpMDIを差し込んで使う。差込口の形状がpMDI専用であることが一目でわかります。
シムビコート タービュヘイラー(分解状態を含む3本)
シムビコートブデソニド+ホルモテロール/DPI(タービュヘイラー)日本で唯一SMART療法が承認された薬。中央は分解状態。差込口がなくスペーサーは装着できません。
ドライパウダー吸入器3種
DPI(ドライパウダー)3種左:タービュヘイラー型/中央・右:ディスカス型いずれも密閉した本体に粉末を収め、自分の吸気で吸い出す構造。外付けの器具を挟む余地がありません。
ディスカスを分解した内部構造
DPIの中身(ディスカス分解)歯車とアルミブリスターテープ1回分ずつアルミ箔に封入された粉末を、歯車が機械的に開封する。薬を空中に噴射しないので、溜めるチャンバーが意味を持ちません。

6-2. 決定的証拠:デバイス別「必要吸気流速」とスペーサー可否

岡谷市民病院の吸入薬一覧(2023.1)に、各デバイスが必要とする吸気流速が載っていました。これが「なぜDPIにスペーサーが使えないか」の数字による答えです。

デバイス代表製品必要吸気流速スペーサー
pMDI(エアゾール)フルティフォーム・サルタノール・アドエア・キュバール・オルベスコデータなし=吸気流速に依存しない○ 対応
レスピマット(SMI)スピリーバ・スピオルト15 L/min○ 対応
エアロスフィア(pMDI)ビレーズトリ・ビベスピデータなし○ 対応
スイングヘラー(DPI)メプチン20 L/min✕
ブリーズヘラー/ハンディヘラー(DPI)アテキュラ・エナジア・スピリーバ20 L/min✕
ディスカス(DPI)アドエア・フルタイド・セレベント30 L/min✕
エリプタ(DPI)レルベア・アニュイティ・テリルジー・アノーロ30〜36 L/min✕
タービュヘイラー/ツイストヘラー(DPI)シムビコート・パルミコート・アズマネックス30〜35 L/min✕
ジェヌエア(DPI)エクリラ45 L/min✕
ディスクヘラー(DPI・製造中止)フルタイド・セレベント60 L/min✕
この表の読み方が核心です。

pMDIだけが「必要吸気流速:データなし」=自分の吸う力を一切あてにしていない。ガスが薬を勝手に飛ばしてくれるので、間にチャンバーを挟んで待つことができます。

一方DPIは20〜60 L/minの吸気流速が必須。患者の吸う力そのものが薬を粉砕・拡散させる動力源です。ここにスペーサーを挟めば、抵抗とデッドスペースが増えて動力が足りなくなり、粉はチャンバーに落ちます。

そして岡谷市民病院の一覧で「エアロチャンバープラス」の欄が設けられているのは、エアゾール(pMDI)とレスピマット/エアロスフィアのページだけで、エリプタ・タービュヘイラー等のDPIページにはその欄自体が存在しません。現場の運用としても対象外だということです。

6-3. 日本で発売された順(年表)

各薬の国内での販売開始を、PMDAの電子添文とインタビューフォームで確かめて並べました(2026-10-06)。

発作止め(SABA)内服吸入ステロイド単剤配合剤(ICS+LABA)LABA単剤生物学的製剤・トリプルその他
1956プレドニン
1971インタール(吸入カプセル承認)
1978サルタノール
1980メプチン錠
1981コルドリンアトロベント
1984メプチンミニ錠テオドール
1987メプチンエアー
1995オノン
1998フルタイドホクナリンテープ(12月)
1999ベロテック(現行品)
2001シングレア/キプレス
2002セレベントパルミコートキュバール
2007アドエアオルベスコ
2009アズマネックスゾレア
2010シムビコート
2013フルティフォームレルベア
2014スピリーバ(喘息に適応追加)
2016ヌーカラ
2017アニュイティ
2018ファセンラ
2019デュピクセント(喘息)ブデホル
2020テリルジー(喘息)エナジアアテキュラ
2022テゼスパイア
2026ビレーズトリ(喘息で承認・未発売)
年表から分かったこと
① フルタイドの国内発売は1998年秋(承認9月30日・薬価収載11月27日)。日本の吸入ステロイドの時代はここから始まります。
② セレベントの発売は2002年6月。フルタイドとセレベントの併用ができるようになったのはこれ以降です。
③ サルタノール(1978年)は、48年使われ続けている薬です。
④ 吸入ステロイドの時代(1998年〜)→ 配合剤の時代(2007年〜)→ 生物学的製剤(2009年〜)・トリプル製剤(2019年〜)と、日本の喘息治療は移り変わってきました。
⑤ オーキシス・エンクラッセ・エクリラ・アノーロ・スピリーバ(ハンディヘラー)はCOPDの適応のみで、喘息には使えません(下の表に注記)。

6-4. 全成分マップ(カテゴリ別・国内発売年つき)

カテゴリ別に、成分・デバイス・国内発売年を整理しました。

■ ICS単剤(吸入ステロイド)

製品名成分(一般名)デバイス会社国内発売
フルタイドフルチカゾンプロピオン酸エステルpMDI/DPI(ディスカス)GSK1998年秋(ロタディスク・薬価収載11月)/ディスカス2002年1月/エアゾール2003年3月
パルミコートブデソニドDPI(タービュヘイラー)アストラゼネカ2002年1月
キュバールベクロメタゾンプロピオン酸エステルpMDI大日本住友2002年8月
オルベスコシクレソニドpMDI帝人ファーマ2007年6月
アズマネックスモメタゾンフランカルボン酸エステルDPI(ツイストヘラー)MSD2009年9月(2025年販売中止)
アニュイティフルチカゾンフランカルボン酸エステルDPI(エリプタ)GSK2017年6月

■ ICS+LABA 配合剤

製品名成分(一般名)デバイス会社国内発売
アドエアフルチカゾンプロピオン酸エステル+サルメテロールキシナホ酸塩pMDI/DPI(ディスカス)GSK2007年6月(ディスカス)/2009年4月(エアゾール)
フルティフォームフルチカゾンプロピオン酸エステル+ホルモテロールフマル酸塩水和物pMDI杏林製薬2013年11月
レルベアフルチカゾンフランカルボン酸エステル+ビランテロールトリフェニル酢酸塩DPI(エリプタ)GSK2013年12月
シムビコートブデソニド+ホルモテロールフマル酸塩水和物DPI(タービュヘイラー)アストラゼネカ2010年1月
ブデホル(後発)ブデソニド+ホルモテロールフマル酸塩水和物DPI(タービュヘイラー)日医工/マイラン/ニプロ2019年12月
アテキュラモメタゾンフランカルボン酸エステル+インダカテロール酢酸塩DPI(ブリーズヘラー)ノバルティス2020年8月
日本でSMART療法が承認されているのはシムビコートとブデホルのみ。フルティフォームはホルモテロールを含みますが、この用法での承認がないため頓用転用はできません。

■ ICS+LABA+LAMA(トリプル製剤)

製品名成分(一般名)デバイス適応国内発売
テリルジーフルチカゾンフランカルボン酸エステル+ウメクリジニウム臭化物+ビランテロールDPI(エリプタ)喘息・COPD2019年5月(COPD)/喘息は2020年11月
エナジアモメタゾンフランカルボン酸エステル+グリコピロニウム臭化物+インダカテロール酢酸塩DPI(ブリーズヘラー)喘息(世界初)2020年8月
ビレーズトリブデソニド+グリコピロニウム臭化物+ホルモテロールpMDI(エアロスフィア)COPD2019年9月(COPD)/喘息用は2026年8月承認・未発売

■ SABA(発作時のリリーバー)

製品名成分(一般名)デバイス会社国内発売
サルタノールサルブタモール硫酸塩pMDI(スペーサー可)GSK1978年6月
メプチンエアープロカテロール塩酸塩水和物pMDI(DPI版=スイングヘラーもあり)大塚製薬1987年10月(内服のメプチン錠は1980年12月)
ベロテックフェノテロール臭化水素酸塩pMDIベーリンガー1985年頃(旧製剤)/1999年7月(現行)
メプチンの成分プロカテロールは大塚製薬が日本で開発した成分で、内服(メプチン錠・1980年発売)と吸入(メプチンエアー・1987年発売)の両方があります。

■ LABA単剤/LAMA/SAMA/抗アレルギー/貼り薬(参考)

分類製品名成分(一般名)デバイス国内発売
LABA単剤セレベントサルメテロールキシナホ酸塩DPI(ディスカス)2002年6月(ロタディスク)/2004年6月(ディスカス)
LABA単剤オーキシスホルモテロールフマル酸塩水和物DPI(タービュヘイラー)2012年9月 ⚠️COPDのみ
LAMAスピリーバチオトロピウム臭化物水和物レスピマット(SMI)/DPI(ハンディヘラー)2004年12月(ハンディヘラー・COPDのみ)/2010年5月(レスピマット)・喘息は2014年11月
LAMAエンクラッセウメクリジニウム臭化物DPI(エリプタ)2015年10月 ⚠️COPDのみ
LAMAエクリラアクリジニウム臭化物DPI(ジェヌエア)2015年5月 ⚠️COPDのみ
LAMA+LABAアノーロウメクリジニウム臭化物+ビランテロールDPI(エリプタ)2014年9月 ⚠️COPDのみ
SAMAアトロベントイプラトロピウム臭化物水和物pMDI1981年
抗アレルギーインタールクロモグリク酸ナトリウム吸入カプセル/吸入液/pMDI(エアロゾル)1971年3月承認(吸入カプセル)/吸入液1982年11月/エアロゾルは2019年11月から製造停止(エアロゾルの発売年は確認できず)
LABA(貼り薬)ホクナリンテープツロブテロール貼り薬(1日1回・24時間)1998年12月(世界初の貼り薬の気管支拡張薬)
LAMA(スピリーバ・レスピマット)は喘息にも適応があります。オーキシス・エンクラッセ・エクリラ・アノーロ・スピリーバ(ハンディヘラー)は、日本ではCOPDの適応のみで喘息には使えません(2026-10-06 添付文書で確認)。ICS/LABAでコントロール不十分なときの上乗せ選択肢です。

■ 内服薬

製品名成分(一般名)分類・位置づけ国内発売
シングレア/キプレスモンテルカストナトリウムLTRA(ロイコトリエン受容体拮抗薬)。アレルギー性喘息の上乗せ2001年8月
オノンプランルカスト水和物LTRA1995年6月
メプチン錠/メプチンミニ錠プロカテロール塩酸塩水和物β2刺激薬の飲み薬。気道を広げる(炎症には効かない)錠 1980年12月/ミニ錠 1984年
テオドールテオフィリンキサンチン誘導体。治療域が狭く血中濃度モニタリングが必要。ICS/LABAの登場で位置づけが後退(下記)1984年4月
プレドニンプレドニゾロン経口ステロイド。効果発現に数時間かかり即効性なし=発作時のリリーバーにならない。GINAは曝露削減を目標にしている1956年3月
コルドリンクロフェダノール塩酸塩中枢性鎮咳薬。咳中枢を抑えるだけで気管支拡張作用なし1981年9月
🚨 テオフィリンの注意点(代謝とカフェインとの関係)
事実意味
テオフィリンは主にCYP1A2で代謝される肝臓で約7割が代謝され、その主役がCYP1A2による脱メチル化
テオフィリンは治療域で代謝が飽和する(非線形)少し増量しただけで血中濃度が跳ね上がりうる。もともと治療域が狭い薬
カフェインとテオフィリンは代謝で競合するカフェインの代謝産物の1つがテオフィリンそのもの。同じ酵素を奪い合う
テオフィリン中毒の症状は動悸・手指振戦・悪心嘔吐・不眠で、カフェイン過剰摂取とよく似ています。

■ 生物学的製剤(注射・重症喘息向け)

製品名成分(一般名)標的国内発売
ゾレアオマリズマブ抗IgE抗体。遊離IgEに結合しマスト細胞への結合を阻害2009年3月
ヌーカラメポリズマブ抗IL-5抗体2016年6月
ファセンラベンラリズマブ抗IL-5受容体α抗体。ADCC活性で好酸球を除去2018年4月
デュピクセントデュピルマブ抗IL-4/13受容体α抗体2018年4月(喘息は2019年3月)
テゼスパイアテゼペルマブ抗TSLP抗体2022年11月
生物学的製剤は重症喘息向けの注射薬です。参考として掲載しています。

6-5. 画像クレジット

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07出典

免責:本ページは添付文書・GINA 2025・査読論文などの公開情報を整理した一般的な情報であり、診断や治療方針の決定ではありません。吸入薬の変更・減量は自己判断せず、必ず主治医に相談してください。成人喘息で吸入ステロイドを完全にゼロにすることは再燃リスクが高く、基本的に推奨されていません。「減らす」と「やめる」は別物です。